in the wind somewhere

あてのない整理整頓

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲3番ニ長調 聴きくらべ1

アルテミスカルテット 

Beethoven: Complete String Quartets

Beethoven: Complete String Quartets

 

解散してしまいましたが、最盛期?の頃の録音です。
分厚い響きでシンフォニック。
アルテミスも1stと2ndが入れ替わるタイプのカルテットですが、
ここでは通常通りのナタリアさんが1st。
強弱記号も細部まできちんと守った上で、第1楽章のコーダでぐっとテンポを落として惹きつけるところとか素敵です。第4楽章のチェロとヴァイオリンによるかけあいのドライヴ感、4人全員が名手だから成り立つスフォルツァンドの表情とかすばらしいです。
たまに見せるナタリアさんの歌いまわし、若干のルバートでしょうか?それが四角四面にならない味わいを添えていて私は好きです。
比較的早めのテンポ、そして分厚い響きを活かしたこれぞまさにベートーヴェン!という王道の演奏ですね。音色が落ち着いているからか華やかさは抑え目です。

 

ズスケカルテット

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集

 

 ベト全としては定番のひとつでしょうか。
比較的古めの演奏にも拘わらず全パートが強弱記号をきちんと守っているのに驚きます。そしてゲヴァントハウスの伝統だからか、フォルテやスフォルツァンドも決して鋭角的にならない。上品で真面目な演奏です。
ズスケはルバートなどもせず楽譜に忠実といった印象。少し遊び心がほしいような気もしますが、演奏に対する真摯な姿勢がひしひしと感じられるので、これはないものねだりというものでしょう。
好みはあるかもしれませんが、瑞々しく風格や品を感じる音色、4人全体が溶けあっているこのサウンドが私は好きです。極端な例を出せばハイフェッツバックハウスフルトヴェングラーカイルベルトのような、音そのものに人格を感じるような格調高さがここにはある気がするのです。
テンポも比較的ゆったりめ、ハイドンモーツァルトの影響が感じられます。

 

プラジャークカルテット

Complete String Quartets (Hybr)

Complete String Quartets (Hybr)

 

 チェコの団体も挙げておきましょう。
弦の国チェコだけあって、サウンドに独特のやわらかさがありますね。ロングトーンの伸びやかな響きを聴いているとチェコだなあと感じたりします。安易に結びつけるのは子供っぽい気もしますが、まさにボヘミアンガラスのよう!この繊細な美しさは第2楽章でとりわけ発揮されているように思えます。たまに出る1stの歌いまわし、というよりはニュアンスのつけかたが隠し味的になっていていいです。
現代のカルテットだけあって強弱記号にも抜かりはなく、アルテミスが王だとしたらこちらはお妃といった印象でしょうか。ベートーヴェンの堂々たる風格というよりは、華やかで美しい側面を強調しているような演奏です。

 

エマーソンカルテット

Beethoven : String Quartets

Beethoven : String Quartets

 

 CDの収録順が3、1、2番と作曲順を意識してそうなもので、こだわりを感じます。エマーソンカルテットは元祖スイッチ式のカルテットで、1stと2ndが入れ替わります。ここではフィリップ・セッツァーが1st、ユージン・ドラッカーが2ndです。
明るく軽めのサウンドでこれぞアメリカン、といったらこれも安易かもしれませんが、平板なわけではなく強弱記号ももちろんきっちり守っているという繊細さもあります。
この軽快さゆえにかベートーヴェンというよりは本当にモーツァルトを聴いているかのような華やかさと親しみやすさがあります。この軽快さはスタッカートのような切れ味、アインザッツの正確さゆえだと思います。聴いていると楽しくなってきちゃいますね。
終楽章のプレストなんかはこの切れ味を活かして早めのテンポで4人がまるで切り結ぶかのようなアンサンブルを繰り広げます。サウンドのおかげで音の溶け合いよりはそれぞれの声部がくっきり聴こえてきてエキサイティング。どうでもいい話ですが、私はこのカルテットのチェリスト、デイヴィッド・フィンケルさんのチェロが大好きだったりします。

 

一旦ここまで。続きはいずれやりたいと思います。

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲3番ニ長調 聴きどころ

個人的に聴きどころと思う所です。

 

第1楽章

冒頭の第1主題、1stヴァイオリンが優雅に奏でる旋律。

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1st movement theme

ロココ調というのか、モーツァルトぽい!と感じます。華やかな旋律。
この冒頭主題をどう演奏するかで曲全体が決まってきそうです。ピアニッシモで、でも速度はアレグロ。いろんな可能性がある指示に思えます。

続いて第2主題に入る前のところ。

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2nd and viola

ここのユニゾンは2ndヴァイオリンとヴィオラの上手さが出るところだと思います。特にスフォルツァンドの表現が大切に感じます。

最初に挙げた主題が展開部ではイ短調に転調します。

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development

和やかな雰囲気が一転、ここからの、主題が細かくモチーフのようになりながら転調を繰り返して厳しい響きになっていくところはまさにベートーヴェン。ドラマティック。主題はモーツァルト風なのに、この展開を聴くとハイドンでもモーツァルトでもない新しい音楽になっていることがわかる気がします。音楽に意志の力を感じるというのでしょうか。美しさ以外に何か訴えかけてくるものがあります。

最後にコーダ。

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1st and 2nd

ここは2ndと1stがかけあいのようになる所で本当に美しいです。こういう最後の盛り上がりでかけあいになるの、ベートーヴェンっぽい!!って思いませんか。


第2楽章はハイドン風に感じます。変ロ長調かな?穏やかさの中に品がありますね。この冒頭、地味ながらバランスが全てという、響きに神経を使いそうなところです。

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2nd movement

第3楽章は解釈がわかれそうな曲ですね。早めのテンポで演奏するとスケルツォといってもおかしくない気がしますし、ゆっくり演奏すればメヌエットにもなりそうです。

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3rd movement

トリオはニ短調になって厳しい響き、ベートーヴェンらしい、暗さと情熱が同居する音楽ですね。短い中に出てくるスフォルツァンドが演奏の個性を決めそうです。

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trio

第4楽章は崇高な雰囲気と情熱的な音楽が立ち代わり現れてくる緩急の付き方にベートーヴェンらしさを感じます。

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4th movement

この楽章では一瞬、運命動機っぽいところもあります。

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fate motive?

そしてベートーヴェンの曲は最後これでもかこれでもかと繰り返して終わる印象なのですが、この曲ではすっと静かに消え入るように終わっていくのも面白いですね。

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end

この曲は1stヴァイオリンが主体なので、全体的な演奏の好みを決めるのは1stヴァイオリンの上手さ、音色の好みが重要になってきそうです。

Beethoven: The String Quartets

Beethoven: The String Quartets

 
Beethoven : String Quartets

Beethoven : String Quartets

 

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲3番ニ長調 概観

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲3番 ニ長調


作曲について

弦楽四重奏曲3番は、ベートーヴェンが最初に作曲したと言われています。
出版する際に番号を付け直しているためこのような順番になっているようです。
初めての作曲ということもあってか、先人のモーツァルトハイドンの影響をかなり色濃く感じる曲で、1stヴァイオリンの華やかでかわいらしい旋律に親しみやすい雰囲気を感じます。


ニ長調

ベートーヴェンにとってニ長調というと、すぐに思いつくのは
・ヴァイオリン協奏曲 二長調
ピアノソナタ15番 ニ長調(パストラール)
ぐらいでしょうか。交響曲やピアノ協奏曲ではニ長調の楽曲自体がなかったり、
ベートーヴェンの曲ではあまりなじみのない調です。
超有名なところをあげると第九の「歓喜の主題」がニ長調なんですが、ベートーヴェンの中では珍しい調性の曲といっていいのではないでしょうか。


他の作曲家にとってのニ長調

すぐに思いつくものを挙げてみます。
ハイドン 弦楽四重奏67番「ひばり」
ハイドン 交響曲104番「ロンドン」
モーツァルト 交響曲38番「プラハ
モーツァルト フィガロの結婚 序曲
モーツァルト 弦楽四重奏20番「ホフマイスター
モーツァルト 弦楽四重奏21番「プロシア王セット1番」
などなど。

他の有名どころだと
パッヘルベル カノン
ヘンデル「水上の音楽」
・バッハ ブランデンブルク協奏曲5番
辺りがすぐに思い浮かびます。
どちらかというとハイドンモーツァルトバロックの曲で馴染み深い調性という印象です。
華やかで明るく、祝祭的な曲想の曲が多いですね。
この辺りの曲と比べてみるのも面白そうです。


ベートーヴェンの同時期の作品、その時代

この時期のベートーヴェンは、この弦楽四重奏曲3番を含めた6番までの6曲を作っています。
同じころ、交響曲では1番、ピアノ協奏曲では2番と1番、ピアノソナタは7~11番を作曲。
室内楽ではヴァイオリンソナタの1~4番を作曲している頃にあたります。
いくつかのピアノソナタチェロソナタ、ピアノトリオなどで華々しくデビューしたベートーヴェンが、いよいよ本格的に作曲に乗りだす、そんな時期になるのでしょうか。
この頃、ベートーヴェンは29歳から30歳になろうとしています。
もしかしたら年齢的にも節目、みたいな思いがあったのかもしれません。
この時期、すでにモーツァルトは死去、ハイドンがザロモンセットの作曲を終えて、前年にはシューベルトが生まれています。こうして今になってみると、時代が古典派からロマン派に変わろうとしているうねりの中にいるようです。

 

Beethoven: The String Quartets

Beethoven: The String Quartets

 
Beethoven : String Quartets

Beethoven : String Quartets